投資の心理学①「プロスペクト理論とは」
最終更新日: 2024-10-16
ページ制作日: 2024-05-24
投資と感情
投資の世界は、論理的な分析と冷たい計算だけで成り立っているわけではありません。投資家も人間であり、感情に左右されることがあります。その結果、本来であれば避けることができたはずの損失を被ってしまうことがあります。
投資は素直に感情のままトレードすると損をする可能性が高い
投資家は、様々な心理的な罠に陥りやすいものです。これらの罠を理解し、克服することが、投資で成功するためには重要です。投資判断を行う際には、常に冷静な判断を心がけ、感情に流されないようにしましょう。
プロスペクト理論
プロスペクト理論(Prospect Theory)は、1979年にノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーによって提唱された理論です。この理論は、従来の経済学理論では説明しきれない、人間の非合理的な意思決定を説明するために作られました。特に、リスクや不確実性がある状況で人々がどのように行動するかを理解するのに重要なフレームワークです。
損失回避性
損失回避(Loss Aversion)は、損失の心理的な痛みが同等の利益の心理的な喜びよりも強く感じられる現象です。簡単に言えば、人は損をすることを避けようとする傾向が強く、同じ金額でも「失う痛み」は「得る喜び」よりも大きく感じます。
選択肢A: 確実に50万円を得る。
選択肢B: 50%の確率で100万円を得て、50%の確率で何も得られない。
確実に50万円貰える選択肢Aを選びがち
この場合、多くの人は選択肢A(確実に50万円を得る)を選ぶでしょう。これは、確実に得られる利益を好む傾向があるためです。
選択肢C: 確実に50万円円を失う。
選択肢D: 50%の確率で100万円を失って、50%の確率で何も失わない。
運が良ければ損をしない選択肢Dを選びがち
この場合、多くの人は選択肢D(50%の確率で何も失わないことを期待する)を選びます。これは、確実に損失を被ることを避けようとする損失回避の心理が働くためです。
なぜこのようになるのか?
損失回避の概念は、損失の痛みが利益の喜びよりも強く感じられるためです。例えば、以下のように感じることが一般的です
50万円を得る喜び < 50万円を失う痛み
人々は50万円を失うことを避けるために、100万円を失うリスクを取ることも厭わない
損失回避性は、人間の意思決定において非常に強力な影響を及ぼします。この心理的傾向を理解することで、自分自身の投資行動や消費行動をより冷静に分析し、感情に流されずに合理的な判断を下すことができるようになります。
確かに、損する痛みは得る喜びよりもずっと強く感じます。投資で少し損をしただけでも夜寝れなくなったりするもんね。
損をして平気な人など誰もいないとおもうよ。ただ感情に流されずに冷静に判断することが必要だね。
参照点依存性
参照点依存性(Reference Dependence)は、投資家が意思決定を行う際に、絶対的な価値ではなく、ある基準点(参照点)に対する変化として評価する傾向を指します。 この基準点は、購入価格、過去の高値、期待値などが基準となることが多いです。以下では、投資の参照点依存性について詳しく説明します。
【株式投資】
購入価格が基準点:例えば、投資家がある株式を100ドルで購入した場合、その100ドルが参照点になります。株価が120ドルに上昇すると、20ドルの利益が評価され、株価が80ドルに下がると20ドルの損失として評価されます。
この場合、投資家は購入価格を基準に株価の変動を判断します。
【給料の増減】
前回の年収が400万円だった人が、今年の年収が600万円になった場合、200万円アップしたと喜ぶでしょう。
前回の年収が800万円だった人が、今年の年収が600万円になった場合、200万円ダウンしたと残念に感じるでしょう。
参照点依存性は、私たちの日常生活や意思決定に様々な影響を与えます。特に、マーケティングや経済学の分野では、消費者の購買行動や投資家心理を理解する上で重要な概念として活用されています。
マーケティングでは、参照点依存性を巧みに利用することで、消費者に商品やサービスの価値をより高く感じさせ、購買を促進することができます。例えば、定価と割引価格を同時に表示する、類似商品と比較して価格を表示する、期間限定のセールを行うといった手法が有効です。
経済学では、参照点依存性が、投資家心理や市場動向に影響を与えることが分かっています。例えば、株価が過去最高値を更新した場合、投資家は楽観的な心理になり、さらに株価が上昇する可能性があります。逆に、株価が過去最安値を更新した場合、投資家は悲観的な心理になり、さらに株価が下落する可能性があります。
1000円の商品がセールで20%オフだと、つい買いたくなるよね!
プロスペクト理論とナンピン買い:投資家が失敗しやすい理由
ナンピン買いとは、投資で損失が出ている銘柄を、平均単価を下げるためにさらに買い増すことを指します。 投資家の中には、ナンピン買いによって損失を少しでも減らし、最終的には利益を得られると考える人がいますが、プロスペクト理論の観点から見ると、ナンピン買いは以下のような理由で失敗しやすいと言えます。
損失回避性:プロスペクト理論によると、人は利益よりも損失をより大きく感じるという損失回避性という性質を持っています。そのため、投資で損失が出ていると、その損失を少しでも減らしたいという気持ちが強くなり、冷静な判断ができなくなってしまうことがあります。 ナンピン買いは、まさにこの損失回避性に基づいた行動です。損切りして損失を確定させることを先送りにして、損失が出ている銘柄をさらに買い増すことで、平均単価を下げ、損失を少しでも減らそうとします。しかし、損失が出ている銘柄を買い続けることは、さらなる損失を招く可能性が高いです。
参照点依存性:プロスペクト理論によると、人は物事の価値を判断する際に、参照点と呼ばれる基準と比較する性質を持っています。ナンピン買いにおいては、当初の購入価格が参照点となります。価格が下がれば下がるほど、購入価格と比較して割安に見えるため、投資家は追加購入を検討しやすくなります。このように、現在の価格を絶対的な価値ではなく、参照点との比較で評価してしまいます。
ナンピン買いにおいて、参照点依存性が投資家の判断にどのように影響を与えるかを理解することは非常に重要です。参照点に基づいた評価が錯覚を生み出し、リスクの高い行動を誘発することがあります。投資家は、感情に左右されず、冷静で客観的な判断を行うことが求められます。投資戦略を立てる際には、絶対的な価値とリスクをしっかりと評価し、長期的な視点での意思決定を行うことが重要です。
ナンピンは一つの有効な売買手法ですが、感情に流された行動になっていないか、冷静に確認することが重要です。特に損失回避の心理が働いている場合、判断を誤りやすいので注意が必要ですね。
そうだね、ナンピンはトレンドに逆行してポジションを増やすことになるから、もし失敗した時の損失がさらに大きくなるリスクもあるよね。冷静にリスクとリターンを見極めることが大切だと思う。
プロスペクト理論と損大利小
プロスペクト理論は、投資家が損大利小になりやすい理由を説明する上で非常に有用です。 この理論は、人々がリスクや不確実性の中でどのように意思決定を行うかを探求し、特に損失回避行動について焦点を当てています。
シナリオ1: 利益確定- 株価上昇: ある投資家が100ドルで株式を購入し、その株価が120ドルに上昇したとします。
- 利益確定の心理: 投資家は20ドルの利益を得られることに喜び、利益を確定しようとします。プロスペクト理論によると、人は利益が出ている状況ではリスクを避け、早めに利益を確定しがちです。
結果: 利益を確定することで、20ドルの利益を得ますが、その後株価がさらに上昇する可能性があり、潜在的な利益を逃してしまいます。
シナリオ2: 損失の先延ばし
- 株価下落: 同じ投資家が100ドルで購入した株式が80ドルに下落したとします。
- 損失回避の心理: 投資家は20ドルの損失を確定することを避け、価格が回復することを期待して株式を保持し続けます。プロスペクト理論によると、人は損失を避けるためにリスクを取る傾向があり、損失を確定することを避けがちです。
結果: 株価がさらに下落した場合、損失が拡大し続けるリスクがあります。例えば、株価が60ドルに下がると、損失は40ドルに増えます。
投資家が利益確定を急ぎ、損失を先延ばしにする「損大利小」には心理的な理由があります。
感情に左右されない投資をするために
投資において、感情に振り回されることは大きな損失を招きえます。利益が出たときは舞い上がり、損失が出たときは焦ってしまうのは人間の自然な心理です。
しかし、このような感情に流されてしまうと、冷静な判断ができなくなり、適切なエントリー・エグジットやリスク管理が難しくなります。
まとめ
感情に左右されない投資をするためには、事前にルールを決めておくことが重要です。
エントリー・エグジットの基準、リスク管理、取引サイズなどを明確にし、ルールを厳守することで、冷静な判断を維持し、長期的な成功を目指しましょう。
投資の心理学②「認知バイアスとは」
※tradingview社のチャートを利用しています。
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